「私は辺境伯を愛しています」。「駆け落ち」を実現させるためについた嘘から始まるシンデレラストーリー『仰せのままに』
シンデレラストーリーが好きなあなたへ送る、「嘘」から始まる恋の物語。
本来ならば出会うことのなかった二人が、とあるプロポーズから生まれた運命に導かれ出会うことに。
偽りの令嬢と外界との社交を一切避けていたとある貴族の、不器用でおかしくも愛しいラブストーリー。
ここは、北の地にあるエフェンハルト伯爵の城。
かつて国を救った英雄の子孫が暮らしている。
今、その応接室で主人公のディアンは城の主と向き合っていた。
彼はディアンを侯爵令嬢と呼んだ。しかし、
一体なぜ、このような状況に置かれているのか、そのきっかけは2日前の出来事にさかのぼる。
ディアンはこの屋敷で働く侍女であった。
孤児として身寄りがなくさまよっていたところをこの家の令嬢に助けられ、以来10年この屋敷で働いている。
働き者で仕事もでき、周囲の人間からもその実力を認められていた。
そんな彼女には、尊敬する人物が二人いる。
一人は自分の命の恩人であるレディ・セレニーである。
誰もが見惚れてしまうような美貌を持ち、ディアンと同じ銀色の髪を持つ。社交活動や慈善活動に積極的で、周囲からとても尊敬されている。
そしてもう一人が、昔、この国を救ったとされる騎士・エフェンハルトである。
ディアンはこの言い伝えから伝わるエフェンハルトの勇姿を信じていた。
そして事あるごとにその素晴らしさを周囲の人間に説いていた。とても尊敬すべき存在なのであると。
日頃、尊敬するレディ・セレニーの侍女として仕えながら、憧れのエフェンハルトのことを想像して想いを募らせる。
それが彼女の日常であり幸せであった。それは変わることなく、これからもずっと続くと思っていた。
しかし、そこに事件は起こる。
レディ・セレニーがとある子爵にプロポーズされたのだ。
断ろうとするレディ・セレニーの意見を無視し、無理やり婚約を結ばせようとするロウェン侯爵。
侯爵としては、その子爵が自分の事業の支援者でもあるため、求婚をむげに出来ないのであった。
レディ・セレニーはとても思い悩んだ。なぜなら彼女には愛している人がいたからである。
そのやりとりをこっそり聞いていたディアンは、元々レディ・セレニーの恋人を知っていたため、侯爵との話を終え部屋から出てきたレディ・セレニーに駆け寄った。
それは、「駆け落ち」の提案だった。思い人と一緒に国外へ逃げて、幸せになってほしい。
ただ、逃げる前に捕まってしまっては、屋敷に連れ戻されてしまう。
その時間を稼ぐため、アリバイ作りとして自分を替え玉にし、レディ・セレニーに会ったことのない貴族の元へ送り出す。
そこで自分が滞在している間に、国境を超えて欲しいと伝えるのであった。
その結果、ディアンはエフェンハルト伯爵の前にいる。
人付き合いを全くしないことで有名な伯爵だったが、レディ・セレニーの名前を伝えると、城の中に迎え入れてくれた。
エフェンハルト伯爵が、ディアンに訪問の理由を尋ねる。
レディ・セレニーが駆け落ちするための時間を稼ぐ。そのためにはなるべく長い間滞在しなければならない。泊めてほしいとお願いするが
あっさり断られてしまう。
必死に食い下がるディアンだったが、一向に首を縦に振らない。助ける義理がないので当然なのだが、この交渉に失敗するわけにはいかない。
なんとか話を聞いてもらおうとやりとりしているうちに、伯爵がレディ・セレニーに求婚した子爵と知り合いだと分かる。
伯爵は子爵には一目置いているらしい。
その子爵が求婚した人となれば、むげに追い返すわけにはいかない。そう思ったのか、突然そう告げる伯爵。
待って、一体なんの権利があって勝手に話を進めるの!?その案に思わず抵抗するディアン。
そのことにあきれながら、ならどの程度なら満足なのかと聞いてくる伯爵に対し、
反射的ではあったが、そう返すディアン。その返事に動揺を隠せない伯爵。
そこにすかさずたたみ掛ける。
こうなればもうこの手でいくしかない。そう思い出た言葉だったが、伯爵は不機嫌になってしまった。
助けてもらうなら、すがりつくだけなら他の人でも良いだろうに、なぜ私を選んだのかと顔を近づけディアンに質問する。それに対し、
かくして、自分の仕える令嬢のために嘘の告白までして伯爵を騙そうとするディアン。
この目論見はうまくいくのか、そして告白を受けて伯爵は何と答えるのか、愛ゆえの嘘と想いが錯綜する物語がここに始まる。
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